2025.08.25
「健康は、処方できる」
― 企業の新しいウェルビーイングのかたち ―
筆者:松本 秀男(整形外科医)
// 本文 ?>現代のビジネスパーソンにとって、健康はもはや「自己責任」ではありません。 長時間労働、慢性的な運動不足、加速する情報社会によるストレス —-企業の生産性や人材の定着率といった経営課題にも、従業員の“からだ”は静かに、しかし確実に影響を及ぼしています。
そんな中、私が最近注目しているのが「Wellmoo」という運動処方サービスです。これは、理学療法士によるフィジカルテストと面談を通じて、個々の社員に対して「運動を処方する」という、非常に実用的なアプローチを行うものです。
運動は「指導」ではなく「処方」されるべき
我々の現場では、関節の痛みや筋力低下といった“結果”が表れてから患者さんが訪れることが多いのが実情です。しかし、多くの疾患は、日々の姿勢や身体の使い方、筋力の偏りが“原因”となって積み重なったものです。 つまり、運動は治療以上に、「予防」として最も理にかなった処方なのです。
Wellmooではこの考えを軸に、運動を“処方”します。体力や関節可動域、バランス機能などを測定した上で、働きながらでも実践できるシンプルなエクササイズを提案する。単なるフィットネスや福利厚生とは一線を画した、医学的な根拠に基づく支援です。
「動き」が健康を変える —— スポーツ医学の視点から
Wellmooの監修者であり、日本のスポーツ医学の第一人者である世良泰先生は、著書『スポーツ医学ってなんだ?』の中でこう述べています。
「スポーツ医学とは、“スポーツ選手のため”だけのものではない。むしろ、日常生活の中で“動き”と向き合うすべての人に必要な視点であり、生活の質そのものを支える医学である。」
この言葉の通り、Wellmooが目指すのはアスリートのような特別な身体づくりではなく、日々の暮らしの中で「自分らしく動けるからだ」を取り戻すことです。そこにスポーツ医学の本質があります。
健康経営の“現場感”に寄り添う
実際に導入した企業の話を聞くと、効果を実感しているのは管理職よりもむしろ、現場の社員たちです。「腰痛が減った」「階段を使うことが増えた」「姿勢を意識するようになった」——日常に埋もれていた身体の“違和感”に気づけるようになったという声は、医師として非常にうれしいものです。
また、LINEなどを通じて気軽に健康相談ができる点も、私から見れば予防医療の要です。小さな不調のうちに、誰かに相談できる。それは、健康を守る“セーフティーネット”とも言えるでしょう。
企業にとっての「健康」は、コストではなく資本
医療の世界では「一次予防」「二次予防」という言葉があります。一次予防は病気にならないようにすること、二次予防は病気の早期発見と進行防止を指します。Wellmooの仕組みは、まさにこの一次予防を企業内で実践できるシステムです。
「健康を守ることが、業績を守ることにつながる」——こうした視点が、今後ますます求められていくでしょう。
結びに
働く人たちの身体が、静かに発しているサインに、企業がどれだけ耳を傾けられるか。 Wellmooは、その“声なき声”に耳を傾けるための、きわめて有効な手段だと私は考えます。 そして願わくば、「不調があるから受診する」のではなく、「不調になる前に、からだに気づける」——そんな社会を、一緒に築いていけたらと思います。